短編 福引

西月 拓

正月の福引で3等を引いた。 文鎮を貰ったのだが、何に使えばいいのかわからず、ひたすらしゃぶっていたところ、4、5歳くらいだろうか。 随分と膨よかな男児が私を妙な目つきで眺めていた。 私も職業柄、人から見られる事には慣れてはいたが、その奇異の視線に長いこと晒されているのにも耐えられなかったので、暫時の後男児に声をかけた。

「坊や、文鎮、欲しいのか。」

私がそう尋ねると、子供は少しの間の後、首を横に振った。

「ちがう。」

掠れているような、しかし妙に耳馴染みのいい声でその男児は私に告げた。

「じゃあ、なんでこっちをみているのだ」

「おじさん、それより、えんぴつの方が美味しいよ。」

奇遇な事に、どうやら彼も私と同様に文房具を食べてしまいたくなる人間だったようだ。鉛筆のうまさは知っていたが、このような子供でもそれを知っているのは少しばかり意外だった。

「そうかそうか。親切にありがとう。」

私はなんだか妙な気持で思わず彼にそう告げたのだが、それを聞いていたのかいないのか、そのまま立て続けに、

「僕は墨汁の方が好きだけど。ボクだけに」

下らない洒落を言い始めたので、この調子に乗った餓鬼はいつか道を踏み違えると思い、その場で氷漬けにした。

下忍の行方は誰も知らない。