短編 糞塚

西月 拓

ターコイズブルーの海が目の前に広がっていた。 この男はその美しさに思わず、
脱糞した。 どうも腹の調子が良くなかったのか、尻から溢れ出る糞はどろどろとしており、ほんの少し緑がかった色合いだった。 さっきまで足跡ひとつなかった真っ(さら)な砂浜が自分の茶色と緑の糞で染め上げられていく様をみて、男は(いささ)かの興奮を覚えた。

三十分ほど経っただろうか、太陽も沈みかけ、鮮やかな青緑だった海は陽の光でその色に一筋の橙が差していたが、それでも男は脱糞をやめなかった。 男は身体中の水分が抜けていくのを実感していた。 肛門も既に裂けたのだろう、先ほどから糞には赤黒さも混じり始めていた。 それでも男は、自分が最初に踏みしめたこの砂浜を誰のものにもしたくないという一心で脱糞を続けた。

それから凡そ2世紀の後、男の見つけた砂浜は伊能の測量隊により発見された。 しかし最早そこには一粒の砂も残っておらず、貝塚に(なぞら)え、糞塚と呼ばれた。 糞塚はその臭気から悪しき思念の漂う土地とされ、陸地ごと切り離されることとなり、日本の地図に載ることはなかった。