男絶川
西月 拓
春の刹那、男は明日への旅路を閉ざすことにした。
いつまでも止むことのない向かい風の中、詩人は詞を書く手が凍え、ペンもどこかへ飛んでいってしまったので、暇をもてあます羽目になってしまった。
技師は日ざしの中でも手を止めることは無かったが、彼がやっていたのは生業でも、趣味でもなく、何の面白みもない雑事だった。
しびれを切らした音楽家は呟いた。「そろそろ終わりにしようか。」
彼の言葉の後、三人はゆっくりと、しかし確かな足どりで駅へ向かう。
それぞれの目には、先程までとは明らかに違った輝きが宿っていた。
駅に着くやいなや、三人は自らの髪をむしり始めた。
「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな……」
どこかで聴いた様な、少し哀れに思えるセリフを口にしながら、自らの髪を抜くその様にはある種の美しさがあった。
「鬘にしようと、思うのじゃ……」
髪をひとしきりむしりとり、僧のような頭をした 3 人の表情には達成感と共に虚しさが感じられた。
むしりとられた 3 人の髪は鬘として生を受けたのである。
三人は頭の穴という穴から血を吹いていたので、その後間もなく死んでしまった。かくして男達の明日は絶たれたのである。
緒絶川の由来はこれにちなんでいる。三人の男が命を絶った、その血の流れが川を作った、というものだ。緒とは原説では男、漢のどちらかだった、というのが近年の主説である。